COLUMN

2024.06.27

ヒーローインタビューは緊張する?

  • #通訳翻訳コラム
ヒーローインタビューは緊張する?

みなさん、こんにちは。プロ野球読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。

プロ野球シーズンも折り返し地点が見えてきましたが、巨人軍が所属するセ・リーグは各チームともに伯仲し気の抜けない試合の日々が続いています。そんななか、先日外国人選手の活躍でチームが勝利し、ヒーローインタビューで通訳をする機会がありました。プロ野球通訳といえばヒーローインタビューを連想される方も多いのではないでしょうか。今回は、ヒーローインタビューについてのお話です。
 
 
■ヒーローインタビューは緊張する?

プロ野球通訳をしていると「ヒーローインタビューは緊張しますか?」と聞かれることがよくあります。通訳の方によって答えは様々だと思いますが、わたしの答えは、緊張はしません、です。もっと正確に言うと、緊張している暇がない、ですね(笑)。確かに、何万人という大観衆の前で話すことを考えるとプレッシャーがないわけではありません。しかし、一度お立ち台に選手とともに上がると、インタビュアーの方の質問を聞いて、訳して、選手に伝えて、そして選手の回答を聞いて、理解して、訳して、マイクで話す、という一連の作業を実行しなければなりません。更には、インタビュアーと選手のやり取りが間延びしないように迅速な通訳が求められます。そのためにはとにかく集中して臨むことがとても重要です。通訳歴も7年目となった今でこそ、通訳をしながら観衆を見渡す余裕も少しずつ持てるようになりましたが、一つ一つの言葉を聞き逃さないこと、その都度適格な訳出を考えることでわたしの脳は大忙しのため、緊張する余裕すらないというのが実際のところです。
 
 
■ヒーローインタビューは一発勝負

選手が記者に囲まれて取材を受けるときは、聞き取れない或いは一度で理解できない質問があればその都度もう一度お願いできますか?と聞き返すことができますし、入団会見等の場ではメモを取れるため、質問や選手の回答を見返しながらより正確な訳を考えることができます。しかし、ヒーローインタビューは環境がガラリと変わります。興奮冷めやらぬ球場の熱気と雑音、広い球場に響き渡るマイクの音響で言葉が聞き取りにくい場合も少なくありません。当然ながらメモを取ることもできませんし、お立ち台で通訳がもう一度言ってくれますか?、と聞き返すこともできません。実際はダメではないのかもしれませんが、お立ち台で通訳者が聞き返している場面はなかなかないですよね。そういう意味でもヒーローインタビューは一発勝負、集中力を最大限に高める、そういう意識で臨むようにしています。
 
 
■終わったあとは「コメント」と「訳」の答え合わせ

普段の通訳に当たってはなかなか映像や音声が残ることはないので、自分がどの程度適格に通訳できているか見直すことができません。一方、ヒーローインタビューは映像で残りますので、あとで映像を見返し選手の言葉を適格に訳せていたかどうかを必ずチェックするようにしています。映像を見返してみると、「この言葉が抜けていた(通訳できていなかった)」、とか、「もっと違う表現がよかったな」、と反省することがあります。もし自分が選手の立場であったとしたら、ちゃんと自分の思いや意思を伝えてほしい、そう思うはずですし、その責任を果たすために通訳の質を磨き続ける姿勢は、常に持ち続けたいと考えています。
 
 
第12回のコラムではヒーローインタビューについて書きました。通訳業務のなかでは決して頻度は高くないですが、活躍した選手とともに多くのファンの方の前に出て、上手く通訳ができたあとの充実感はとても大きく、プロ野球通訳をやっていてよかったと思える貴重な瞬間でもあります。もし外国人選手のヒーローインタビューを観る機会があったら、通訳者の立場になって観てもらえたら視点が変わって面白いかもしれないですね。
 
 
今日のお話もスポーツ通訳に興味がある皆さんの参考になれば幸いです。
それではまたお会いしましょう。

ご依頼はコチラ 登録スタッフ募集