はじめまして。世界90言語を対象に通訳・翻訳・外国語人材派遣サービスを提供している、吉香(きっこう)です。
吉香ではおよそ2,000名の通訳者を擁する膨大なネットワークを保有しています。本記事では、その中からさまざまな分野で活躍している英語通訳者の若林 素子(わかばやし もとこ)さんに、これまでのキャリアや大切にしていることなどを伺いました。
通訳における得意分野やキャリアについて
若林さんが対応している通訳の種類や業界について教えてください。
私が主にお引き受けしているのは、英語での逐次通訳です。逐次通訳とは、話し手が一定量の話をしたあとに一旦話を区切って、その内容をまとめて通訳する方法です。
通訳をご依頼いただく業種・業界はさまざまで、ジャンルは問いません。メーカー系、食品・飲料系、ラグジュアリーブランド系、化学系、政府系など、多岐にわたります。その中であえて得意分野を挙げるとしたら、前職で携わっていた建築系や、技術系などの理系分野だと思います。
これまでのキャリアについて教えてください。
最初は派遣社員として社内通訳となり 、その時期と現在のフリーランスを合わせると10年ほどになります。吉香に登録したのは2022年頃 です。
もともと海外での設計関連の仕事や、デザイン会社・建設会社での内装設計などで英語を使った仕事をしていましたが、当時からたまに通訳を引き受けることがあって「通訳者なら設計の知識を活かしながら長く続けられるのでは」と思っていました。そのとき縁あって採用された建設会社で社内通訳者としてのキャリアをスタートし、外資系ホテルの案件に携わりました 。
ただ、実際に始めてみると通訳者としての力量不足を痛感しました。通訳学校に通って学び直しながら経験を積み重ねてきましたが、独立した今も勉強、勉強の日々です(笑)。
通訳者として仕事をする、ということについて
通訳をしていて、どんなときに難しさを感じますか?
通訳した内容がうまく伝わらなかったときですね。そういうときって、私自身の知識不足や、話者の意図を私がきちんと理解できていない場合がほとんどなんです。字面だけをとらえて通訳しても、正しく主旨を理解していないと相手に伝わらない訳出になってしまいます。そうした際にも焦らず、改めて意図を確認し丁寧に通訳をするよう努めています。
また、事前資料などがない状態で通訳を行うケースも多いため、対応力が求められますね。当日まで資料がなくても焦らず十分な通訳をするためには、可能な限り幅広く勉強して備えておく必要があります。
未経験分野の案件を引き受ける際の準備や心構えを教えてください。
未経験分野は特に緊張感も高まるので、お客様の前で堂々としたパフォーマンスをするためにも、事前学習が何よりも重要ですね。
いただいた資料だけでなく、関連する文献や記事などをできる限り調べて読み込むようにしており、未知の単語や聞きなれない言い回しがあると、英語も日本語も自然に発話できるようになるまで声に出して練習するようにしています。
時間はかかりますが、勉強した分だけ当日のパフォーマンスに確実にかえってくると実感していますし、大変ではありますが同時に面白さや楽しさもあります。最初は理解できなかったことが次第に頭に入ってくるようになり、それが着実に通訳に活きてくるのを感じます。
吉香からの仕事で一番印象に残っているものをお聞かせください。
食品衛生関係の外資系企業からご依頼をいただいた食物繊維分析に関するラウンドテーブル(議論・意見交換の場)での通訳です。専門性が高く非常に難しい内容で、お引き受けしてよいかどうか本当に悩みましたが、準備期間がかなり長かったこともありチャレンジしました。
準備は大変でしたが、終了後にお客様から「わかりやすかった」「化学のバックグラウンドがあるのかと思った」と言っていただけるなど、つらかった勉強が報われた経験でした。
現場で初めて会うお客様と信頼関係を築くために大切なことは何だと思いますか?
お客様の中には、通訳自体を依頼された経験のない方も多くいらっしゃいます。そうしたお客様には、現場がスムーズに運ぶようにどんな段取りで通訳を行うのかといった説明をしたり、質問があればお答えしたりなど、できるだけ不安を解消していただけるように努めています。
例えば、話者の方からよく聞かれるのが「話す際には1行ずつ区切って話したほうがいいですか?」という質問です。通訳者に配慮いただいて大変ありがたいことなのですが、1行ずつ話を区切ると話しづらく自然なプレゼンテーションができなくなると思うので、話者の方が話しやすいタイミングで区切っていただいて大丈夫ですよ、とご説明しています。
このようにお客様と丁寧に意思疎通を図りながら、足りないことがあれば現場でもできるだけ伝えて円滑な進行に自分も協力する。そして、お客様は限られた時間の中で正確な通訳ができるようたくさんの配慮をしてくださっているので、そこにきちんと感謝の意を示すことが大事だと思います。
ご自身の考える、通訳者に求められる資質とは?
努力ができる人。私も「精一杯以上の努力をする」ということを自分のモットーにしています。通訳の現場はそのとき一度きりなので、やり直しは効きません。その中で通訳者が足を引っ張ることが絶対にないように、常に最大限の努力をすることが大切だと思います。
それから、言葉を大切にできる人。通訳は言い回しひとつで違う印象を与えるので、言葉への意識は不可欠だと思います。そのほかにも、突発的な状況に柔軟に対応できる人、失敗してもくじけない鋼のメンタルを持っている人…挙げればキリがないですね(笑)。もちろん私もこれらを満たしているわけではないので、そうありたいと常日頃から考えています。
吉香の特色はどんなところだと思いますか?
案件の規模やジャンルが、非常に多岐にわたることですね。通訳サービスを提供する企業として、とても幅広い領域をカバーされているのだと感じています。
そして、コーディネーターの皆さまの対応力に圧倒されます。お客様と通訳者、双方の要望をうまく汲み取って、正確に情報共有をしながら1つの現場を組み立てていく。言葉で言うよりも難しいことだと思います。吉香はそのコーディネートの力が特に素晴らしく、細やかな目配せをしてくださることでチームとして最大のパフォーマンスを発揮できます。だから吉香のお仕事は安心して現場に入ることができますし、きっとお客様もそうだと思います。
今後挑戦してみたい仕事や目標をお聞かせください。
「苦手分野はありません」と自信をもって言えるよう、さまざまな分野のお仕事を経験し、「依頼してよかった」と言ってもらえるような通訳になりたいですね。
私は40代後半で通訳専業となりました。まだまだ経験不足ですが、この仕事のいいところは飽きるところがないところだと思います。一つひとつの案件やそこでの出会いを、これからも大切にしていきたいですね。