みなさん、こんにちは。プロ野球読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。
前回コラムでも触れたように、近年はスペイン語圏の選手が多く、担当する選手も複数になることが多くなってきました。選手によっては家族がいたり、一人暮らしであったり、球場内外で必要なサポートも選手によって様々です。
さて、そんな中、チームの日本人選手やスタッフからよく聞かれるのが「通訳は選手が休みの日も一緒に買い物や食事に行くんですか?」という質問です。答えは、イエスでもありノーでもあり、時期や選手との付き合いの長さにもよります。ただ、ちょうど今このコラムを書いている春季キャンプ宮崎滞在中に関しては、当然チームは休養日はありますが、通訳としては完全オフはない、そう思って過ごすようにしていますし、実際に丸一日休みということはありません。
例えば食事の付き添いですね。基本的にホテルや球場でチームが食事を準備してくれますが、我々日本人にとっては美味しくて満足な食事に見えても、新外国人選手はもちろん、二年目以降の選手であっても日本は彼らにとって「異国」であることに変わりはなく、出された食事が口に合わない、ということもしばしば。最初の時期は食事会場に一緒に降りて、一品ごとにどんな料理か説明することも必要ですし、時には滞在ホテルの近くで彼らの好む料理があるレストランを探して連れて行ってあげることもあります。
キャンプ中は皆同じホテルにいるため、休日でも外国人選手と三食共にすることを考えたら、通訳が自分一人で自由に時間を過ごす休日、というのはなかなかありません。気分転換をしたい選手と一緒にショッピングに行くこともあります。ただそれも、翌日の練習や試合で気持ちよくプレーしてもらうため。気持ちよく食事ができる環境やストレスを抱えないことはプロアスリートにとってとても重要です。私もコスタリカに二年半住んでいたときは、できる限り現地の食事を食べることを心がけていましたが、それでも、たまに日本から母親が送ってくれたパックの味噌汁ほど美味しいものはなく、疲れも吹き飛んで元気が漲ってきたものです。
言葉を訳すことが通訳の仕事という考え方もありますが、ことスポーツ通訳において最大の使命は「選手が最高のパフォーマンスを発揮するためのサポート」だと私は考えています。そのために「異国の地で生活することはどういうことか」を選手の立場になって考えられることは選手をサポートする上で極めて重要な視点です。
休みがないことも、見方を変えれば通訳の仕事のやりがいの一つになります。もし、通訳を目指されている方で海外経験がない方がいれば、短期でもいいと思います。ぜひ「異国で過ごす体験」をしてみてください。通訳の現場に立たれた時に選手の気持ちが理解できることで、やりがいもまた大きなものになるでしょう。
それではまた次回お会いしましょう。