みなさんこんにちは。読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。
先日新しく加入した外国人選手の入団会見がありました。長年他球団で活躍し実績ある選手の移籍となった今回は多くの報道陣に囲まれる会見となり、私も通訳者として同席しました。入団会見は一年に一度、場合によっては数年に一度あるかないかの決して頻度の高いイベントではありませんが、その分独特の緊張感と難しさがあります。
◼️報道陣は総勢50名ほど
冒頭でも述べたように、実力も実績も十分な大物助っ人の移籍とあって注目度は高く、会見場を見渡すとカメラおよそ10台、記者の方々は20名〜30名、その他スタッフを含めるとざっと50名ほど関係者の集まった会見は、チーム編成本部長と選手、私の三人が壇上にあがり執り行われました。球場の熱気やざわめきがこだまするヒーローインタビューとは違い、フォーマルなスーツに身を包んで静寂の中で実施される入団会見は、通訳作業に加えて、話すときに言葉に詰まったり舌を噛んでしまわないよう細心の注意が必要です。雑念が入ってしまうと質問者の質問を聞き逃してしまったり、また過度に緊張してしまうと選手のコメントを全て記憶ができず正しく訳出ができなくなってしまうので、私の場合は会見の直前に心を落ち着かせる目的で意識的に呼吸をゆっくりにします。余計な緊張を解すだけでなく集中力を高め、さらには通訳時に早口になって聞きにくい話し方になってしまわないためにも有効です。
◼️記者→選手:質問は同時通訳的に速く選手に伝える
会見など聴衆が多数の時の通訳では、できるだけ質問と回答の間が短くなるように意識しています。そのためには、質問者が全て話して終えてから選手に通訳をしていると選手の回答を通訳するまで間が伸びてしまうので、質問の途中から同時進行で通訳を開始し、質問者が質問を言い終えてからすぐに選手が回答できるようにします。ただし、一瞬でも気が抜けると質問の最後の方が聞き取れず質問を正しく選手に伝達できないということも起こり得ますので、ある程度質問の意図や着地点を予測しつつ、そしてできるだけ簡潔に素早く通訳するように意識しています。
◼️選手→記者:選手の言葉を通訳する時はできるだけゆっくり
同時進行で通訳をする質問とは反対に、選手が回答する際は選手の声や表情がメディアや聞き手に伝わるよう、選手が全て話し終えるのを待ってから通訳します。しっかり通訳するためには当然選手の話した言葉を記憶しなければならず、忘れないうちに全て通訳する必要があるわけですが、しかし、忘れる前に話してしまいたいと思い速さに意識をおくと、冒頭でも触れたように早口になってしまったり、噛んでしまったりすることがあります。さらには、訳出の際の言葉の選定や表現が乏しくなってしまうことにも繋がりますので、質問者の回答を選手に通訳するときとは反対に、選手の言葉を通訳するときは、聞き手が聞きやすいように意識的にゆっくり話すように努めています。
ヒーローインタビューなどは、勝利の喜びで包まれた球場の雰囲気もあり、インタビュー内容そのものよりも選手が壇上に上がることにファンも盛り上がりを見せ、通訳者に多少の誤訳や詰まりがあったとしても目立つことはありませんが、会見のようなフォーマルな場面では通訳者の話し方や言葉にも注目が集まります。加えて、新しい選手であるがゆえに、選手の訛りや表現、コメントの傾向など事前情報も少ない中での通訳は普段のそれと比べると難易度は高くなります。今後通訳を伴うスポーツ選手の会見を見る、あるいは実際に通訳をする機会があれば、みなさんも参考にしていただけたら幸いです。
今日のコラムも皆さんの参考になれば幸いです。
それではまた次回お会いしましょう。