みなさんこんにちは。読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。
いよいよ2025年を迎え野球シーズンも近づいてきました。オフの期間は戦力の整備が行われ新シーズンに向けて新しい選手がやってきます。新しい外国人選手の入団が決まってからは、来日からキャンプイン、新住居への案内など新しい環境にスムーズに入っていけるように球団通訳がサポートするわけですが、外国人選手と信頼関係を築けるかどうかは長い一年をともに戦うに当たって選手にとっても通訳者にとっても重要です。特に、初めて来日する選手に少しでも早く心を開いてもらうために、通訳者として最初の第一印象は重要です。今日は私が選手に良い印象を持ってもらう、信頼できると思ってもらうために実践していることをいくつか紹介します。
■来日前に一度通話アプリで話をする
新外国人選手の入団が決まると、担当通訳に選手の連絡先が共有されます。過去のコラムで触れたメッセージアプリのWhatsAppを介し、来日までの準備物や連絡事項をテキストでやり取りをはじめるわけですが、私は必ずどこかのタイミングで直接選手と通話するようにしています。これには理由は二つあり、一つはテキストだけだと表情や感情が伝わりにくく機械的で冷めた印象になってしまいがちなところをふまえ、選手が担当通訳に対してどんな人間なのか、という不安や警戒心を抱いてしまうことを解消すること。二つ目は、新外国人選手の入団に際して記者会見や取材の機会が多いことを想定し、事前に選手のスペイン語のなまりや特徴を知っておくことで通訳がスムーズにできるように準備することです。新しい環境での生活はどうしてもストレスや疲労が溜まりがちですが、来日の前に選手と通訳者がお互いの性格や声をある程度知っておくことで、できるだけ不必要なストレスや緊張感を緩和しておきます。
■共通項を見つけておく
家族構成など、過去に滞在したことのある国や地域の中で通訳者である自分との共通項を探します。例えば、私は4歳の息子がいますが、幼い子供がいる選手の担当をする場合は私も小さい子供の父親であることを伝えれば、子育ての悩みや子どもが風邪を引いたなどトラブルがあった際に理解してくれそうだな、という印象を持ってもらえます。選手の出身国を訪れたことがある、または同国出身の選手を担当したことがある、同国出身の友人がいるということも選手に親近感を持ってもらえるアイスブレークの良い材料ですね。私たち日本人も海外旅行に行ったときに地元が話題に出たりしたら嬉しく感じることあるかと思いますが、共通の話題があるとお互いの緊張感が少し和らぎます。また、このような話題を話すときは、まずは自分から話しかけることも意識しています。何も知らない相手から突然、結婚しているの?子供は何人?彼女は?と聞かれたらあまり気持ちのいいものではありません。まずは自分がどういう家族構成で、どういう経験があって、ということをオープンにして相手(選手)が警戒しないように気をつけています。
■リクエストはひとまず受け止める
新外国人選手は新しい所属先のルールがまだわかっていないことがほとんどです。全所属先では当たり前にできていたことができなかったり、交渉の余地がないような決まりについても変更ができるかどうか聞いてきたりすることがあります。全てを通訳者が遮ってダメと言ってしまうと、たとえ正しくても選手が窮屈に感じてしまうことがあり、最悪の場合はその窮屈さが通訳者に向けられ、選手が通訳者といることにストレスを感じてしまうことにも繋がりかねません。反対に「気持ちは理解できる。ダメかもしれないけど聞いてみるよ」と所々で選手の要望をシャットアウトせずにひとまず受け止めて理解してあげる姿勢や余裕があると、選手も通訳者に対して話がしやすくなります。選手との信頼関係を一度築くことができれば、ダメなことはダメとむしろはっきり伝え安くなり、通訳者としても選手に過度に気を使わずに接することができるようになります。
新しい選手が多くやってくる今の時期は、概ね上述したようなことを心がけて新しい選手とは接するようにしています。スポーツでも人間関係でも、良いスタートが切れると良い結果につながる可能性が高くなりますよね。また、日本のプロ野球の場合、基本的には外国人選手は通訳者を選ぶことはできませんので、気持ち良くシーズンインできるかどうかは担当通訳者との相性も大きな要素です。そのことを通訳者としても自覚し、良い印象を持ってもらい信頼関係を築いていくために必要なことは何か、今後も日々向き合いながら業務に努めたいと思います。
今日のコラムも皆さんの参考になれば幸いです。
それではまた次回お会いしましょう。