みなさんこんにちは、読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。
前回コラムではスポーツ通訳のやりがいとしてリーグ優勝した時の経験について書きました。選手の活躍のおかげで優勝の喜びを共有できたことは何事にも変え難い幸せで貴重な経験となりました。しかしながら、全ての選手が優勝に貢献する活躍ができたわけではなく、優勝の歓喜の裏側では思うようなプレーができずに悔しさを噛み締めた選手がいるのが、厳しいプロ野球界の現実です。外国人選手も例外ではなく、チームはプレーオフに向けて準備を進める傍ら、来年の契約がないことを告げられた選手は帰国していきます。毎年この時期は通訳者としてしっかりサポートすることができたどうか自問自答する時期でもあります。
■戦力外
昨年入団し、昨シーズンは活躍したある選手が、今年はなかなか調子が上がらずに一軍でほとんどプレーすることなく10月初旬に帰国することとなりました。チームは4年ぶりのリーグ優勝を果たし10月中旬から始まるプレーオフに向けて結束を固める一方で、来年の構想から外れる選手はこの時期に戦力外を告げられます。ある日、二軍にいた彼から突然WhatsApp(メッセージアプリ)で、「君のような素晴らしい人間に会えてよかった。今まで本当にありがとう。」とメッセージが届きました。戦力外という事実だけで辛いはずなのにそんな中で「ありがとう」と言ってもらえる関係を築けていたことは通訳者として嬉しく安堵する気持ちがある一方で、もっと自分がサポートできていたら違う結果になっていたかもしれない、そのように自戒の念もまた込み上げてきました。
■通訳者が結果にコミットすることは難しい
選手のパフォーマンスに通訳者の影響はどれほどあるか、意見は様々あると思いますが、客観的にこれを評価することは難しく、実際のところは通訳者に関係なく活躍を続ける選手は日本でもアメリカでもたくさんいます。選手が最善の結果を出せるようにどれだけサポートしても、そもそもプレーするのは選手自身ですし、相手がいるスポーツではベストパフォーマンスを出せても相手が上回れば必ずしも結果に直結しません。そう考えると、通訳者が選手のパフォーマンス結果に与える直接的な影響は限定的と言えるのかもしれません。
■通訳者にできること
結果には直接コミットできずとも、パフォーマンスの最低ラインを維持するための防波堤となることが通訳者が多少なり影響できる点ではないか、これが私の考えです。最低ラインとはモチベーションが切れて練習や試合の放棄をしてしまったり、コンディションが上がらずにストレスを抱え込んでしまい手詰まりな状態になってしまうことです。特に結果出ない時が続くとどうしても精神的な負担が大きくなりがちです。チームにはトレーナーやスコアラー、コーチ、栄養士、メンタルサポーターなど様々な分野のスペシャリストがいます。選手の抱える問題に応じて適切な人、場所へ橋渡し役となり、暗いトンネルから抜け出せるように伴走しお手伝いすること、これが一番身近な存在である通訳者だからこそできることでもあります。
最初にも触れた、事実上戦力外となり帰国した選手とは、今年は私が一軍、彼が二軍でなかなか積極的に関与することは叶いませんでしたが、何かできることがあったとしたら何ができたたろうか、と通訳者として考えさせられます。私の考えるスポーツ通訳者の理想は選手の抱える問題に選手といっしょになって向き合うことができることです。次回は、具体的な例を出しながら、スポーツ通訳者として選手のパフォーマンス向上にどのように貢献できるかという点について書きたいと思います。
今日のコラムもみなさんの参考になれば幸いです。
それではまたお会いしましょう。