COLUMN

2024.11.28

プロ野球通訳のシーズンオフ(前編)

  • #通訳翻訳コラム
プロ野球通訳のシーズンオフ(前編)

みなさんこんにちは。読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。

読売巨人軍はセ・リーグ優勝を果たしたものの、日本シリーズ出場権を争うクライマックスシリーズで敗戦してしまい、2024年シーズンを終えました。最後の悔しさを晴らすべく、来年に向けてチームは若手を中心にまだしばらく練習が続きますが、一方で「助っ人」と呼ばれる外国人選手はそれぞれの国へ帰国していきます。本回ではシーズンオフと言われる11月から1月にかけての通訳者の業務について書きたいと思います。
 
 
◾️帰国便の手配
 
シーズン最終戦またはプレーオフ最後の試合が終わると一軍外国人選手は母国へ帰国します。球団と提携する旅行会社の担当者と日程を調整し帰国便を手配するのも通訳者の業務です。長い期間異国で生活をしていた選手は一日でも早い帰国を希望するケースが多く、最終戦が終わってから手配をかけても直近の日程では満席でチケットが取れないことがあります。しかしながら、プレーオフ進出がないと事前にわかっている場合はシーズン最終戦を目処にチケット手配をすることができますが、最後の最後までプレーオフ進出を争っていたり、プレーオフ進出した際は勝ち続けた分だけ試合が続きますので、いつが最後の試合になるのかなかなか予測ができません。そもそも、まだシーズンやプレーオフが続く最中に負けた場合の話を選手にするのはできれば避けたいところです。そのため、通訳者は➀プレーオフ進出できなかったケース、➁プレーオフに進出したが初戦で敗退したケース、➂3戦目で敗退したケース、など何パターンかを想定して帰国便を事前に調査し仮押さえするなどの段取りをしておきます。
 
 
◾️育成外国人選手の対応
 
プロ野球には育成選手という制度があります。支配下と言われる一軍でプレーすることのできる選手とは違い、二軍や三軍のみの出場に限られますが、パフォーマンスや結果次第で支配下選手になる可能性を秘めた選手の契約形態のことを指します。「助っ人」と言われる外国人選手は一軍で戦力として期待されて来日してきますので、一軍の日程が終われば帰国しますが、育成契約の外国人選手はシーズン後もしばらく練習が課せられます。シーズンにもよりますが、おおよそ11月の中旬から後半までチームの練習に参加しますので一軍外国人選手が帰国したあとは、育成選手に付いて通訳者は現場で対応します。ただ、この時期は外国人選手の数は少なく、通訳者の間でシフトを組んで業務に当たることが可能なためシーズン中に比べると出勤数は減り、プライベートな時間を含め少し余裕が持てる時期でもあります。
 
 
◾️来季に向けての準備
 
育成選手が帰国した後の12月は外国人選手がいませんので現場業務は基本的になくなり、来季外国人選手が2月からのキャンプインに必要な道具の発注や、選手来日に必要な査証申請など事務手続きなどが中心となります。上述したように、時間的余裕ができる時期でもあるので、通訳者も多忙なシーズンを過ごした後の休養であったり、家族と過ごしたり、来季に向けて静養し英気を養います。ただ、あくまでこれは私のように第二外国語として言語を学んだ人間に関してですが、筋肉や体力と一緒で語学も使わないと忘れてしまったり、瞬発力が衰えてしまったり(すぐに言葉が出てこない)することがあります。2ヶ月全くスペイン語(又は英語)を使わずにいると、1月中旬から外国人が来日し始めて業務を開始するにあたり支障とまではいかなくとも、言語のスイッチを入れて立ち上げに苦労することがありますので、私は意識的になるべくスペイン語を使い続けるようにしています。
 
 
1月半ばから11月までのおよそ10か月続いた業務の締めくくりとして外国人選手を空港まで見送りに行き、荷物検査を通り過ぎた選手の背中が見えなくなったときに、今年の業務も一段落ついたなぁと肩の荷が下りたような安堵感に満たされます。一方で、しっかり休んだあとはプロ野球選手がオフシーズンはトレーニングを継続するように、通訳者としても言語が鈍らないようにブラッシュアップし続ける姿勢が大事です。次回は、私が実践するオフシーズンで外国人がいなくなったあとのスペイン語の使用や学習の継続方法について書きたいと思います。
 
今日のコラムもみなさんの参考になれば幸いです。
それではまたお会いしましょう。

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