COLUMN

2024.09.05

知らない言葉はどう通訳する?(後編)

  • #通訳翻訳コラム
知らない言葉はどう通訳する?(後編)

みなさんこんにちは、読売巨人軍スペイン語通訳の加藤直樹です。

前回コラムでは知らない言葉が出てきても、通訳者自身が話者の説明を理解することで、言葉そのものの直訳がわからなくても会話の流れを止めずに通訳ができること、について書きました。実は先日、外国人選手が試合中に負傷をしてしまい、手術をすることになってしまいました。それに伴い、病院の診察から執刀を担当する医師の方のオペに関する説明、その準備として麻酔が必要なことなど通訳する機会があったのですが、医療用語は日本語でもわからない、聞いたことがないという単語がたくさん出てきます。特に今回は日本語でも知識のなかった麻酔に関して知る機会となりましたので、その時の通訳について書きたいと思います。
 
 
■先ずは日本語でしっかり理解する

麻酔が伴う手術に際しては必ず麻酔に関する説明を事前に受けることがルール化されており、まずは麻酔に関する15分程度の動画を選手と視聴します。この時は同時通訳をしながら選手とともに視聴し、視聴後に麻酔科専門の医師から再度説明とそのリスクなどについて逐一通訳をしながら説明を聞きます。通訳するにあたり日本語でもわからない麻酔の専門用語、例えば脊椎クモ膜下麻酔、硬膜外麻酔、神経ブロック、などが出てきました。当然ながら通訳者が理解できないことは通訳の仕様がありませんので、先ずは私がしっかりそれぞれの意味を理解することに努めました。

◯説明を受けた麻酔の種類
全身麻酔/脊椎くも真下麻酔/硬膜外麻酔/神経ブロック

 
 
■わかる言葉で通訳する

わからない単語が出てくると、その単語の訳を自分の知識の中から探そうと一瞬止まって考えてしまい、その後の話の内容を見失う(聞き逃す)ことがあります。こういう時はむしろ、わからない単語を訳を考えるのではなく、その後の説明、文脈からその言葉が何を意味するのかを理解し、自分の語彙力の範囲で通訳をします。上述の麻酔の種類についても、医師の方が丁寧に説明してくださり、それぞれの麻酔用語の直訳はできなくとも、「四種類の麻酔があり、一つ目は完全に眠らせる麻酔。二つ目は・・・」といったかたちで、自分の言葉で選手に通訳することができました。

全身麻酔     :完全に眠らせる、意識がなくなる
脊椎くも膜下麻酔 :下半身のみ眠らせる、意識あり
硬膜外麻酔    :下半身含む胸から下の部位を眠らせる、意識あり
神経ブロック   :肘から先など体の一部のみ眠らせる麻酔、意識あり

 
 
◾️基礎的な語彙力は必要

専門用語はなかなか覚えることは難しいですが、とはいったものの医療やけがに関わる基礎的語彙力を備えていることはやはり必要です。例えば、骨折、ギブス、痺れ、吐き気、麻酔、神経、脊椎、採血、心電図、レントゲンなど診察でよく使われる言葉。第二外国語として学習した言語の場合、生活の中で実体験の伴わない分野に関する語彙というのはなかなか学ぶ機会がありませんので、通訳者自ら積極的に様々な通訳場面を想定し、語彙力を増やすことが求められます。ちなみに、私の場合はスペイン語を学ぶきっかけとなったコスタリカ滞在中に左手首を骨折し、現地で手術を経験しました。幸か不幸か、その時の経験が基本的な医療用語に触れる機会となりました。
 
 
二回に渡って知らない言葉が出てきたときの通訳について書きました。通訳現場では会話の流れを止めないために、直訳がわからない場合でも自身の言葉に変換して通訳できる柔軟性が求められます。スポーツ通訳は今回のようにスポーツ現場以外での通訳機会が多々あるのが特徴という点では、ある程度どんな分野になったとしても「会話の流れを止めない」ための基本的な語彙力を有することが必要です。私自身、日常生活に置いて、野球と関係がないことでも「これはスペイン語でなんて言うんだろう?」と意識的に考えるようにしながら、語彙力のボトムアップに努めるようにしています。

今回のコラムもスポーツ通訳を目指される方の参考になれば幸いです。
それではまた次回お会いしましょう。

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